故人が賃貸住宅で暮らしていた場合、部屋の片付けより先に確認したい三つの権限があります。賃貸借契約を動かす権限、室内へ入る権限、家財を扱う権限です。親族、連帯保証人、鍵を預かる方が、必ずしも同じ権限を持つとは限りません。
通常の賃貸借契約では、契約者が亡くなっただけで契約や家財の権利関係が自動的に片付くわけではありません。最初に契約書と鍵を確保し、相続関係を確認しながら管理会社と連絡を取ります。この記事では、解約を急ぐ前に確認すること、家財を動かす前に立ち止まる場面、退去条件を文書に残す順序に分けて説明します。
結論|最初に契約書・鍵・連絡先を確保し、勝手に処分しません
契約者が亡くなった後は、次の順番を基本にします。
- 賃貸借契約書、鍵、家主・管理会社の連絡先を確認する
- 同居人、連帯保証人、緊急連絡先、相続人を確認する
- 家主または管理会社へ死亡の事実と連絡担当者を伝える
- 契約を続けるのか、合意して終了するのかを確認する
- 家財の一覧を作り、処分できる権限のある方を確認する
- 退去日、原状回復、家賃、敷金、鍵の返却を話し合う
- 電気・ガス・水道、郵便、保険など住居に関係する手続きを整理する
法務省は、賃借人が亡くなった後、賃借権と室内に残された家財の所有権は相続人へ承継されると説明しています。そのため、家主、管理会社、連帯保証人、親族のいずれか一人の判断だけで、契約終了や家財処分まで進められるとは限りません。
契約者の死亡だけで通常の賃貸借契約が終わるとは限りません
まず、賃貸借契約書と特約を確認します。契約者名、物件名、家主または管理会社、連帯保証人、家賃の支払方法、解約手続、退去時の条件を控えてください。
通常の賃貸借契約では、契約者の死亡だけを理由に契約が当然に終了するとは限りません。賃借権は相続の対象となるため、相続人の確認と、契約を継続または終了する手続が必要になります。同居していた家族がそのまま住み続けられるかどうかも、契約の種類、同居の状況、相続関係などによって判断が変わります。
一方、契約書に終身建物賃貸借など死亡による終了を前提とする特別な契約が記載されている場合があります。契約名だけで判断せず、家主や管理会社へ契約内容を確認してください。
管理会社へ伝える内容と、まだ約束しないこと
家主または管理会社には、できるだけ早く連絡し、次の内容を伝えます。
- 契約者が亡くなった事実と死亡日
- 連絡している方の氏名、続柄、連絡先
- 同居人の有無
- 鍵を保管している方
- 相続人の確認状況
- 葬儀などで、今すぐ退去日を決められない事情
最初の連絡で、解約日、家財をすべて処分すること、原状回復費用の全額負担などを確定する必要はありません。「契約書と相続関係を確認したうえで改めて連絡する」と伝え、電話の日時、担当者名、話した内容をメモに残します。
管理会社から書類が届いた場合も、署名する方に権限があるか、記載された退去日や費用の内容を確認します。判断に迷うときは、その場で結論を出さず、専門家へ相談してください。
家財は写真と一覧を残し、権限を確認してから扱います
室内の家具、家電、衣類、書類、写真、貴重品などは、亡くなった方の財産です。法務省が示すとおり、室内の家財の所有権も相続人に承継されるため、家主や管理会社が自由に処分できるものではなく、親族であっても相続関係を確認せずに分配・廃棄してよいとは限りません。
室内へ入る必要があるときは、管理会社へ連絡し、できれば複数人で確認します。次の記録を残すと、その後の話し合いに役立ちます。
- 入室した日時と参加者
- 鍵の本数と保管者
- 各部屋の状況が分かる写真
- 現金、通帳、有価証券、契約書、貴重品の一覧
- 残す物、判断を保留する物、生活ごみなどの区分
- 持ち出した物、持ち出した方、保管場所
食品や衛生上の問題がある物など、早い対応が必要な物もあります。ただし、独断で室内を空にせず、管理会社、相続人、必要に応じて専門家と処理方法を確認してください。遺品整理の時期は、遺品整理はいつから始めるかでも整理しています。
相続放棄を検討しているときは、家財を処分する前に相談します
借金や未払金の有無が分からず、相続放棄や限定承認を検討する場合は、室内の家財を持ち帰る、売却する、廃棄する前に、弁護士や司法書士などへ相談してください。家財の扱いが相続の判断に影響する可能性があるためです。
裁判所は、相続放棄の申述期間を、原則として自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内と案内しています。3か月で相続財産を調べても判断資料が得られない場合には、家庭裁判所へ期間伸長を申し立てられる制度もあります。
誰が相続人になるか、どの行為が相続の承認に当たるか、家賃や原状回復費用を誰が負担するかは、個別事情によって異なります。本記事だけで判断せず、期限を意識して早めに相談してください。亡くなった後の相続手続きの流れも、確認事項の整理に利用できます。
解約と退去は、確認事項を文書にして進めます
相続人や権限のある方が確認でき、契約を終了する方針になったら、家主または管理会社と次の項目を確認します。
退去日と家賃
解約の申入れ日、契約終了日、家賃の計算方法、未払家賃の有無を確認します。亡くなった日がそのまま家賃の終了日になるとは限りません。口頭だけで済ませず、解約届や合意書の控えを保管してください。
家財の搬出と清掃
搬出できる日時、車両の場所、共用部分の養生、粗大ごみの出し方、残してよい設備を管理会社へ尋ねます。賃貸住宅のごみ出しや粗大ごみのルールは自治体と物件で異なるため、通常の収集場所へ無断で置かないようにします。
原状回復と敷金
室内確認に立ち会えるか、修繕箇所をどのように確認するか、敷金や預り金を誰へ返還するかを尋ねます。請求内容に疑問がある場合は、写真、入居時の資料、明細を照合します。
鍵の返却
本人用、家族用、スペアキーを含め、本数を確認して返します。鍵を返した日と受け取った担当者が分かる記録を残してください。
電気・ガス・水道などは、退去日と室内作業に合わせます
住居を解約するときは、公共料金や生活サービスも確認します。
- 電気、ガス、水道
- 固定電話、インターネット
- 火災保険、家財保険
- 郵便物の転送や送付先
- 定期購入、新聞、宅配サービス
- 駐車場、駐輪場、トランクルーム
室内の確認や清掃で電気・水道を使う場合があるため、停止日は退去作業と合わせます。契約者本人以外が手続きする際に必要な書類は各事業者で異なるため、死亡の事実、続柄、連絡先を伝え、案内を受けてください。
死亡後の手続きを全体から確認したい方は、死亡後の手続きチェックリストもご覧ください。賃貸住宅だけを先に進めず、期限のある手続きと合わせて整理すると抜けを減らせます。
入居時の「残置物モデル契約」がある場合
国土交通省と法務省は、単身高齢者が亡くなった後の賃貸借契約の解除と残置物処理を円滑にするため、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。これは、入居者が生前に受任者との間で、死亡後の契約解除や家財処理を委任しておく仕組みです。
モデル契約の使用は法令上の義務ではなく、すべての賃貸住宅に設定されているものでもありません。契約者が亡くなった後に家主側の判断だけで適用できる制度でもないため、賃貸借契約書や別紙に、解除や残置物処理の委任契約があるかを確認してください。契約が見つかった場合は、受任者と管理会社へ連絡し、定められた手順に従います。
よくある質問
契約者が亡くなった日で賃貸借契約は終了しますか?
通常の賃貸借契約では、死亡だけで当然に終了するとは限りません。契約書、相続人、同居人の状況を確認し、家主または管理会社と契約継続・終了の手続きを進めます。特別な契約がある場合は、その内容も確認してください。
親族なら室内の家財をすぐ処分できますか?
家財も相続の対象となるため、親族というだけで自由に処分できるとは限りません。相続人と権限を確認し、写真と一覧を残してから扱います。相続放棄を検討している場合は、処分前に専門家へ相談してください。
家主からすぐ部屋を空けるよう求められたらどうしますか?
まず契約書と相続関係を確認し、必要な期間と作業内容を話し合います。合意した退去日、家賃、家財、原状回復、鍵の返却を文書に残してください。判断が難しい場合は、弁護士、司法書士、自治体の相談窓口などへ相談します。
身寄りのない方の家財は管理会社が処分できますか?
相続人が見つからない場合でも、管理会社が直ちに自由処分できるとは限りません。生前の委任契約の有無や法的手続を確認する必要があります。管理会社側も、国土交通省・法務省の資料を参照し、専門家へ相談してください。
まとめ
賃貸住宅の契約者が亡くなった後は、契約書、鍵、管理会社、相続人、家財の順に確認します。通常の賃貸借契約と家財は自動的に処理されないため、独断で解約届へ署名したり、室内を空にしたりせず、権限のある方と管理会社で手順を合わせてください。
中本葬祭では、葬儀後に必要となる手続きを整理するための情報をお伝えしています。葬儀や法要について確認したいことがある方は、資料請求・お問い合わせからご相談ください。賃貸借や相続の個別判断は、管理会社や法律の専門家へご確認ください。
出典
確認日:2026年8月29日
- 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
- https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html
- 法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」
- https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00262.html
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html?p=1708
- 中本葬祭「死亡後の手続きチェックリスト」
- https://nakamoto.jp/sougigo/shibougo-tetsuzuki-checklist/
- 中本葬祭「遺品整理はいつから始める?」
- https://nakamoto.jp/sougigo/ihinseiri-jiki-meyasu-shijukunichi/
この記事の監修
中本 吉保(なかもと よしやす)/専務取締役・厚生労働省認定 1級葬祭ディレクター
平成12年(2000年)に中本葬祭を創業。以来25年以上・7,500件以上のご葬儀に携わり、「どうすれば故人様が喜んでくださるか」を考え続けています。
